HANADASOUPROJECTが立ち上がって3年が経とうとする頃、花田荘のオーナーから連絡があった。花田荘に喫茶店を入れたい、とのことであった。その頃花田荘は101号室の若者が結婚をきっかけに退去予告が出て、コスプレスタジオの「STUDIO102」が稼働している状況だった。
詳しく事情を聞くと大名(福岡市天神地区の繁華街)で経営していた喫茶店「珈琲フッコ」が移転を希望していると言うのだ。この喫茶店は、大名地区にある老舗の喫茶店だった。2005年までは大名地区の古民家で営業していたが、この年に発生した福岡西方沖地震により、古民家での営業を諦めざる得ない状況になってしまった。急いで決めた新店舗での営業を2018年当初まで頑張ってきたが、立地や賃料などのアンバランスもあり、大名での閉店・廃業を余儀なくされてしまった。その後閉店を嘆く声が大きくなり様々な支援者の力によって花田荘で復活する流れとなった。
花田荘では4月から準備に取り掛かった。若者が住んでいた101号室とコスプレスタジオの102号室の壁を取り払い、最低限の解体で対応した。2部屋をつなげることで約15坪程度の店舗が出来上がった。風呂場は焙煎室となり、トイレの一つは解体され厨房から客室までの通路となった。
内装はどちらもこだわって作っていたため、壁の解体による仕上げの作業とエントランスやカウンターなど店舗としての造作工事、店舗什器の設置でほぼ完成した。アンティーク建材により結果的に今回新たにできた喫茶店であるにも関わらず、昔からそこにあるかのような風貌となった。そもそもこの喫茶店自体が既に40年近く営業しており、花田荘の古さとの相性がよかったという結果が生まれたのである。
福岡市は大規模な開発が進み、それに伴い小さな店舗の行き場がなくなってきている。地価も上昇し続けており、長らく天神・大名地区を支えてきた「老舗」と言われる店舗が閉店・廃業をする例も少なくない。「高齢者」の経営する店舗は、外国人旅行者の増加などのドラスティックなマーケットの変化に対応できないことが多い。しかしコンテンツ力としては非常に魅力的であり、継続してきたことによる顧客の獲得もできている。店舗自体も高齢化を迎えたと言うのであれば、「立地」「テナント」の見直しにより再スタートを切ることができるのではないか。
花田荘のオーナーは元来「花田荘は将来的にテナントビルにしたい。」と言っていた。「若者」と「高齢者」の交わる場所としての花田荘に、今回「老舗」の入店があった。次回また疲弊しているがコンテンツ力のある「老舗」が入店すれば、古い箱の可能性は大きく広がっていく。
そもそも繁華街の価値は誰のものか。賑わいを作った「店子」が作ったものか。それとも不動産会社や地主が作ったものか。大名地区に賑わいができ、テナントビルが「雨後の筍」の如く建ち並んだ時期があった。その後「リーマンショック」をむかえた大名はまさに悲惨だった。入居がないまま1年以上経過している新築のテナントビルが多く存在した。再び活況を迎えた今はそんなことがなかったのような賑わいぶりだが、最初に賑わいを作った店舗は既にいない。
こういった「老舗」を駆け込み寺のように受け入れられる場所があれば、それは新しい「場所」の価値を生み出すことになるのかもしれない。
珈琲フッコ
花田荘1階