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高築年アパートの今(6)HANADASOUPROJECT 共感を生み出す仕組みづくりその2

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前回は共感を生み出すデザイニングについて述べたが、今回は

それをいかに機能に落とし込んだかについて述べようと思う。

HANADASOUPROJECTが行った機能的な共感は、

「ベンチの設置」と「手すりの設置」。

それだけ?よくある話じゃん!と行った声が聞こえてきそうであるが、

まさにそう、それだけである。

 

「ベンチ」は1階に住んでいた90前のおばあちゃん(びっくりするくらい腰が曲がって

いて、いつも下を向いて話しかけて来る。実は顔がよくわかってなかった。)が、

家の鍵を取り出すのに手間がかかる、持っている荷物を置く場所があったらいいな、、

という話を聞いたから。

ヘルパーの方が来ているときは、いろいろ手伝ってくれるそうだが、

来てくれないときは、自分でいろいろとしなければならない。買い物もその一つで、

買い物袋を置くところがあれば、本当に嬉しい。そんな話からだった。

幸い、1階の渡り廊下が広く取ってあったので、向かいを全てベンチにした。

もちろんアンティーク建材を利用して、「かわいい」ベンチであることには抜かりない。

おばあちゃんが自分の水やり用に購入して来たジョウロ。そのアクションがもはやかわいい。

そして、そのおばあちゃんが、実はお花を育てるのが好きで、このベンチに鉢植えを

おいていいか?と聞いてこられた。

共有部なので、一応オーナーに確認したところ、是非ともおいて欲しいという話になった。

そしてそのおばあちゃんに、花田荘のお花の水やりをお願いしたところ、

喜んでやらしてもらう、ということになった。

機能としての「ベンチの設置」が、「アパート内での役割の再配分」に移行したのである。

大げさに聞こえるかもしれないが、「清掃や簡易なメンテナンス」を管理会社に依頼すると

思いの外コストに反映する。業者も毎日見ているわけでもないので、一定期間ネガティブ

な状況が放置されることになる。

住民であれば、毎日利用するし目にするので、ちょっとしたことを毎日続けることは

「高築年アパート」の維持には欠かせないファクターである。

「毎日の清掃と心がけ」と「計画的な修繕」は、結果低コストのメンテナンスを実現する

両輪である。その意味でも、管理会社に任せっきりの不動産オーナーは、足元を掬われて

然り、なのだ。

別の企画をさせてもらったアパートで、ゴミ置場にイタズラ書きをされたことがあった。

これを消したのはなんとアパートの住民である。たまたま自分も居合わせたのだが、

「こんなのカッコわるいすよね!」と行って自前のネイルリムーバーで消していた。

従来なら、

1)住民が気がつくが放置 2)管理会社が気がつく、3)オーナーに報告して

相談する、4)見積もりを提出、5)業者が作業する

という流れになるだろう。結果、時間経過(汚いアパートの状況の放置時間)と

コストが発生してしまう。ところが、アパートの住民が「当事者意識」を持つことで、

短時間で解決、「高築年のアパート」の維持活動になる。

オーナーがベンチ用に用意してくれたトネリコ。日差しが強い日に遮ってくれる。

手すりとベンチは、デザイン性を除いてしまえば、オーナーの「気持ち」である。

その気持ちを理解する住民がいて成立する。

本当は若い人と高齢者がこのベンチに座っておしゃべりなんかしてくれたら、

なんて想像もしている。花田荘だったらそんな日が本当に来るんじゃないか、

とも思っている。

-hanadasou
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