102号室のヤマダさんがお亡くなりになって、近所に住んでいた親戚の方が退去の手続きをされた。確か、弟さんが来られて遺品を整理された。
102号室は空室になった。
しばらくして、オーナーさんから電話があった。そろそろ次の企画を考えたい、人が集まる場所を作りたい、とのことだった。しかし簡単に人が集まると行ってもお金をうむ仕組みがなくてはならないし、お年寄りと若者が集う場所としての花田荘でなくてはならない。
そこで案として浮上したのが「コスプレスタジオ」だった。なんとなく「コミュニティスペース」ではなく、敢えて「コスプレスタジオ」。と言うのも、近年コスプレスタジオが増加しており空き家対策に貢献しているとの話を聞いたことがあった。実は自分自身も別の場所で「コスプレスタジオ」を運営しており、前向きな結果がでつつある時機でもあったのだ。しかも糟屋郡志免町のTSUTAYABOOKGARAGEで「夜のコスプレ撮影会」なるものを開催し、こちらのイベントも成功させていた。
近年のコスプレは若者のコミュニケーションツールのひとつといっても過言ではない。数名のキャラクターをSNS上で募集し、初対面同士で撮影を行う。しかも、彼らのコスチュームは本格的で完成度も高かった。そんな彼らが追求しているのが「本格的な撮影場所」というわけだ。
花田荘は本物のアンティーク建材を使用し、「古い」=「かわいい」のデザインを駆使している。その結果、アニメの背景として相性の良いものだった。アンティーク建材を使ったスタジオが具体的にどんな撮影に適しているかをリサーチしたところ、「魔法少女系」「スチームパンク系」「ドール系」とのことだった。「妄想系」というのもあり実際のアニメには存在しないシチュエーションだが、創造性を追求する中で生まれたジャンルなのだと解釈している。いわゆるドリフの「もしものコーナー」のようなものだ。
2017年の春に「コスプレスタジオ102」がスタートした。もちろん内装も造り込みをしっかり行い、背景のテーマを明確にした。職人がこだわって作ったレンガ調の壁、室内に小屋を作るなどかなり革新的なスタジオとなった。
そして花田荘は住民以外の人も出入りする建物としてもスタートした。アパートは不特定多数の人が出入りする建物ではない。6部屋で構成される花田荘は基本的に6名の契約者が出入りする建物だった。コスプレスタジオができてからは、多くの人が出入りし様々な SNS上で話題となった。地元のメディアにも何度か取り上げてもらうことができた。県外からコスプレスタジオを利用する人も出るようになった。
不動産の価値を再考してみると、立地や建造物の価値だけでなく「お金を生む仕組み」が評価される。いわゆる人間の熱量をそこに落とし込めるかが肝心である。後出しジャンケンを如何にさせるかだ。「私だったらこうする」「私だったらこれをやってみたい」といった後出しの企画が多く出てくる場所こそが、不動産として価値のある場所だと考える。今後の付加価値は、一般的な高齢なオーナーの思考スピードをはるかに超えてやってくる。その時に思考のシャッターを下ろしてしまうとその不動産の価値は停滞し、長期的には下落してしまう。その価値に対して無理解で思考停止したオーナーや不動産会社は淘汰される運命にある。